渡邊恵太さんの「融けるデザイン」を読む。「優れたデザインとは何か?」という問いを考える場合、「デザインは誰のもの?」という疑問が湧くのは、人を軸に思考するパーソナリティを持つ故だろうか。デザインの古典的な定義に対して、情報とインテラクションを軸とした現代的な再定義を試みる興味深い一冊である。
本書はインターフェイスやインテラクションデザインといったデザインの新領域を論じる。まず、現象レイヤとして定義されている領域が個人的にはとても新鮮。UI/UXデザインが世界のインターネット化が進むにつれ、より重要になっている背景を腹落ちさせてくれる。しかも、それは単に操作性や判読性(可用性のような概念も含むと思われるが)といった割と表層的な、本質的でないとそれこそ無知の無知による誤解をしていたわけだが、それを「透明性」、「身体拡張」、そして重要ワードである「自己帰属感」の事例紹介を通じて分かりやすく解き明かしてくれる。テクノロジーと人の関係性に関心のある人な、とても魅力的な議論だと思うはずだ。
人間は動き続けている。だからそれを阻害しないデザインであることが一つの基軸になる。動くから(センサーとしての身体は)環境を感知できる。何かのデザインを考える時、例え動的なダイナミクスを持つ場合でもイメージは大体の場合、スナップショットであることが多い。
ギブソンの生態心理学から引用した肌理の議論も面白い。例えば画材の使い方やデッサンでの鉛筆の重ね塗り、コンピュータグラフィックスでもパターンを重ねることで肌理が生まれるが、そこに人はリアリティや自己帰属感を知覚することで物を認識するということなのか。
2015年と比較的新しい本なのだが、昨今のデジタル化の進展が早すぎるせいか、既に一般化した内容も見受けられる。「デザインとはインターフェイスを考えること」。インターネットの向こうにいる「人」。デザインの対象にもよるし、インターフェイスというより「The Internet」に対する人の関わり方かもしれない。情報と物質の境界線が消えたら、人とメディアの関係性もまた違和感のある境界線に思えないだろうか。